臨床コラム 距離
距離(distance)とは,1点だけでは存在せず,2点間で測定される長さを指します。例えば,大阪から京都までの距離や,自宅から職場までの距離など,物理的に比較的長い距離を表すことが多いです。
他者との距離
距離を人間関係に当てはめると,自分と他者との間に感じる「距離」があります。人間関係において,「距離」という言葉は,たとえば「距離が近い」人は親しい関係にあり,「距離が遠い」人とは疎遠である,というように使われることが一般的です。
パーソナルスペース(personal space)
みなさんは,電車に乗る際に空席が多ければ端の席に座り,人と離れて座ったりしませんか?また,電車が混んでいると,「早く目的地に着いてほしい」と感じることがあるかもしれません。このように,個々人が持っている空間に他者が入ると,不快に感じることがあります。
パーソナルスペースとは,他人に近づかれると不快に感じる空間で,個人が心理的に安心を感じる空間を指します。この空間の広さは,育った社会や文化,個人の性格や相手との親密度によって異なります。
臨床心理での心の距離
人間関係における距離は,単に関わり合いの程度だけでなく,他者との交流における情緒的な関係性を示します。
心の距離が近いと安心感や信頼が生まれますが,近すぎると問題が生じる場合があります。たとえば,「距離がとれない」は,他者との情緒的に過剰に密着した関係に問題がある場合を指し,境界が曖昧になり,お互いに侵害や束縛し合います。また,感情に巻き込まれやすく,主体的な独立を保てないまま結びついている場合もあります。例えば,子どもが親の期待に応えようとしすぎ無理をして不登校になり,恋愛関係では相手に過度に依存し,相手が不在時には見捨てられる不安から攻撃的になったりするなどがあります。
心の距離が遠すぎると人間関係が希薄になり,孤独感を感じることがあります。「距離を空ける」と「距離を置く」という言葉は似ているようですが,対人関係において,「距離を空ける」は主に物理的な距離を指し,このまま一緒にいたらよくないといった意味合いで使われます。一方,「距離を置く」は,冷静さを取り戻すための期間(冷却期間)など,心理的な意味も含まれています。
「自分の対人関係における心の距離感はどうだろう?」と自問すると,意外と戸惑うことがあります。
(文責:鈴木 千枝子)