臨床コラム 「はぁって言うゲーム」
おもしろい! このゲームは是非やりたい!
それほど好奇心が強い人間でもないのだが,珍しく心が躍った。
少し前に流行った「はぁって言うゲーム」。皆さんご存じだろうか。
“はぁ”という音を,それぞれカードが示す感情場面に当てはまるように様々な声色を使って表現していくゲームである。聞いている人は,その「はぁ」がどんな感情状態を表しているのか言い当てる。
驚きの「はぁ!」もあれば溜め息の「はぁ・・」もある。疑問の「はぁ?」もあれば怒りの「はぁ!?」もある。同じ「はぁ」に声色ひとつでこれだけの表現があるということを改めて感じさせられる,実に秀逸なゲームである(と私は思う)。
カウンセリングの中でも相槌やうなづきがある。
「うん」「ほぅ」「へぇ」など。これらの音声も「はぁ」と同じく,それそのものは意味を持たないが,文脈の流れの中で感情を乗せて発すると意味深くなる。私が心理職を目指すきっかけとなった恩師が,絶妙な「ふ~~ん」の語り部だった。恩師の「ふ~~ん」は,「ふ~~ん,そうなの。それは大変だったねぇ」とその先の言葉まで含んでいるような雰囲気があった。
私はちょっとだけその「ふ~~ん」に憧れていた。そして,やはり今も憧れている。
「相槌だけで人が良くなる」と言うと大げさかもしれないが,ちょっとそういうのを信じている。
相槌は明確なメッセージとなる内容が含まれない“音”なので,相手の受け取り方次第でどのようにも解釈できる余地が含まれている。だから,聞いてもらっている人はその相槌に自分の心を映し出し,聞いてもらっていながらも自分と対面しているような雰囲気がそこに生まれるのではないかと思う。
他者がいながら,自分に没頭できる。
これは,とても幸せな時間に違いない。母親に見守られながら砂場で一生懸命遊んでいる子どものようなものだ。母親の腕にくるまれながら,そうとは知らずにすやすや眠っている赤ちゃんもそうかもしれない。
相槌ひとつでそのような雰囲気が生まれる。
優れた相槌に近づくための「はぁゲーム」! なんと可能性に満ちた「はぁゲーム」!
興奮のあまり「はぁゲーム」と連呼してしまったが,いつかどこかで,渾身の「はぁ」を披露したいと思っている。
そして,いつか,あの憧れの「ふ~~ん」を身に着けたいと思っている。
(文責:高橋久美子)