臨床コラム 「始め」と「初め」

初めてコラムを書きます。ここ数年,環境の変化もあって何かを初めて行う,ということが増えました。ですので,今回は「はじめ」について考えたいと思います。

 まず「はじめ」を漢字にすると「始め」と「初め」があり,前者はスタートや開始といった意味になるのに対し,後者は時間的に早いことを意味しますね。

 何かを新しく「始め」る時,不安も期待も抱くと思います。その割合は人それぞれで期待の方が大きくなる人もいれば,不安の方が大きくなる人もいますね。特に不安になる人は自分の考え方はネガティブでよくない,と思いやすいかもしれません。はたしてそうなのでしょうか。

 そうではなく,それぞれメリットとデメリットがあります。不安があることで先々のことを考えリスクヘッジのための行動を取ることができるでしょうし,期待があることで臆することなく新しいことにチャレンジできるでしょう。他方,不安が大きすぎると身動きが取れなくなったり,新しいことにチャレンジできなくなったりします。期待が大きすぎると,現実とかけ離れてしまったり,期待と違った時に落ち込んだり,イライラしたりすることも起こりやすくなります。良い変化であれ,悪い変化であれ,変化は人の心にとってはストレスとなりますので,期待と不安が入り交じることは当然のことです。

 ですから,不安と期待の両方をバランスよく抱いていることが大切になります。とはいえ,わかってはいても自分の心の動きはそう簡単にコントロールできないと思います。まずは自分が今,どんな心の状態なのかを捉えておくことが大切だと思います。感情を表すことは一筋縄とはいかず,そのニュアンスや色合いは様々だと思います。以前にアンミカさんが「白って200色あるねん」と仰ったことが話題になりましたが,心についても同じことが言えると思います。心に関していえば200色では済まないでしょう。

 そして,「始め」たことを続ける上で支えとなるものの一つに,最初に抱いた気持ちがあると思います。「初め」てのことに感動した時,その印象は強く心に残りますね。それがその後の行動に影響を及ぼすことも多々あります。感動することは動機づけ,認知的枠組み,他者志向に影響し,感動体験は,強烈な情動体験なので記憶に残りやすく,その効果には持続性があり,記憶を再生することによっても再度その効果が強化されると言われています(戸梶(2003)http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/metadb/up/niikiyo/KJ00004257034.pdf)。最初に感動した時のことは忘れられませんし,それが原動力になって今の自分を動かしていることも多くあると思います。原点回帰という言葉がありますが,うまくいかなかったり,思うようにいかなくてくじけてしまったりする時には「初め」の感動した気持ちを思い出すようにしたいですね。

(文責:小池(本岡)徳子)

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