臨床コラム こだわり(拘り)
こだわりのポジティブ側面とネガティブ側面
「Aさんはいつも細かい規則にこだわるので,融通を利かせてほしい。」のこだわりは些細なことにとらわれている意味があり,周りのさまたげとなる場合があり,良い意味で使われていないようです。
しかし,最近では価値を譲れない,妥協しないという意味で「食材にこだわったシェフの料理はおいしい」など,その道において秀でているとほのめかし,その人の価値を高めています。他にも「B店のこだわりのスイーツ」「バイヤーが選ぶこだわりギフト」など作り手や選び手の自己主張を指し示し,何かに意義を感じているこだわりをポジティブに表現しています。このこだわりは,特定の事柄に対して注力を注ぐ行為を指す言葉で,誰にも共通するものでなくても,その人にとっての価値を指します。
こだわりがネガティブな場合も,細い点に注力している点は同様です。しかし,「ささいなことに執着する」「ちょっとしたことを必要以上に気にする」などその頻度が増すなら,ある事柄に拘束されて心の自由を失い気持ちがとらわれているとネガティブに使われていることが多いです。
臨床の視点から
こだわりをじっくり考えてみると,ポジティブ・ネガティブな側面はどちらにしても自分が持っているこだわりで,何かについての関わりに対する自分の心を表現しています。言い換えると自分の特性を表しています。
本来,気にしなくてもいいようなつまらないことに心がとらわれる。例えば,手が不潔に思えて過剰に手を洗ってしまう,戸締りを何度も確認せずにはいられないといった同じ行為を繰り返す「強迫行為」,自分の意思に反してある考えが頭に浮かんで離れず,考えずにはいられない「強迫観念」があります。これらの症状は強迫性障害と言われて,こだわっているものが一人歩きして,人は主体性を奪われて支配・束縛されるようになっていくのです。
このような状態になると,人は日常生活に支障をきたすまでになり治療を求めてきます。心理臨床家との交流で,クライエントはこだわりの背景にある安心できなさ,無力感,疑惑,罪悪感,虚しさ,悲しさなどを気づき,自分を受け入れることが大切と思います。
(文責:鈴木 千枝子)